オンライン診療を拒絶する、こと

2020.4.18

 

 

しばらく前から、「オンライン診療」という言葉を目にすることが増えてきました。

新型コロナウイルス騒動に伴って、医療機関に行くのも危険、ならばオンライン診療で、という流れは加速し、初診でもオンラインで可能、ということになります(した?)。

 

オンライン診療の導入、範囲拡大に反対している日本医師会は、まるで既得権益に固執する悪人集団のような扱いです。

 

でも、私はどうしてもオンライン診療大歓迎、という気持ちになれません。

それは、医師会が反対する理由として報道されている、医療の偏りが生じる恐れがある(すなわち、地元の医院にかからなくなる=医師会員の多くを占める開業医の収入が減る)ということではなくて、「そもそも医療・医術とはどのようなものなのか」という医者の存在の根源にかかわる理由からです。

医者になって30年ほどですが、私はすでに時代に乗り遅れた古い医者なのかもしれません。

 

 

(私の知っている)診察には、問診、視診、触診、打診、聴診とあり、それで病気の候補をある程度しぼってから検査へという順になります。

そう習いましたし、実践してきました。

私は打診をすることはまずありませんが、それ以外はほとんどの患者さんに行っています。

 

 

問診:

 質問を繰り返して病状の詳細を尋ねることから始めるのは基本中の基本です。

 ここで大切なのは、患者さんの言いたいことと、我々の聞きたいことには少し違いがある、ということです。

 患者さんにとって、昼間に梅田に出かけてデパートで買い物をして歩きすぎたと思う、ことや、阪急電車のエアコンが効きすぎて寒かった、ことはとても大切で症状と関係がありそうなことに思えますが、私たちにとっては「日中外出」程度にしか必要ない情報だったりします。

 胸が痛いんです、と来られた方のちょっとした一言「ぴりぴりと」が帯状疱疹の診断のきっかけになることもあります。

 患者さんの言葉から私のアンテナに引っかかる言葉を探し出して、さらに根掘り葉掘り聞いていくことが、病気を絞り込むうえでの最初で最重要の作業になります。

 ピンと来ないかもしれませんが、実は、質問をしたときの患者さんの表情の変化や応答の言葉の強さ、言葉の選び方などにも気を配って観察しています。

 さらにいうと、診察室に入ってこられるときの歩き方もさりげなく観察しています。

 このような微妙なやり取りをテレビ電話(この言葉も古い)で行う自信がありません。

 

視診:

 (判じ物みたいですが)見ればわかるけれども見なければわからないものも多くあります。

 上記の帯状疱疹も、「胸が痛い」という患者さんの胸を見れば多くは診断することができます。背中のこともあります。

 スマートフォンの前で服を脱ぐのは診察室の何倍も抵抗を感じると思うのですが、どんなものでしょう。

 

触診:

 代表は頚部(首)や腋下(脇の下)、時には鼠蹊部(足の付け根)などのリンパ節が腫れていないか触れてみるものです。

 循環器領域では、足の血流が障害されていないか、左右の違いがないかどうか、足甲の脈を触れたりします。

 触れなければわかりません。

 

聴診:言わずとしれた聴診器です。

 心臓は弁膜症や先天性心臓病の雑音、不整脈だけでなく、長い歴史の中でさまざまな病状の聴診上の特徴が研究解明されています。その技能をすべて身に付けるのは大変ですが、少しでも多くと努力しています。

 呼吸の音にも病状に応じた正常との違いを聞き取ることができます。

 では、安定している高血圧やコレステロールの患者さんに毎回聴診するのは意味があるのでしょうか。

 私は、ある、と思っています。

 心臓と呼吸の音を毎回聞くことで、なんとなくの記憶が残り、時に「あれ、こんな雑音あったっけ」とか「心房細動でてる」とか、私にも患者さんにも思いもしない病状を捕まえることも少なくありません。

 

 

私に限らず、医者は誰でもこれだけのことを短い診察の間に行っています。

おそれずに自画自賛してしまうと、名人芸、てなもんです。

 

利便性のためにこれらのとても大切な情報を切り捨ててしまう気には到底なれないのです。

 

オンライン診療を推進しようとしている方たちは、そのあたりどう考えておられるのでしょうか。

推進に一所懸命なのが経済界(のように見える)のも気がかりです。ビジネスチャンスではあるでしょうが、上記のような医療の本質について考えておられるでしょうか。それとも医者の聴診なんて「ポーズ」とでも思っておられるのでしょうか。

 

 

日本人は漢方に信頼をおく方がが多いです。

私は詳しくありませんが、漢方診療の基本は検脈、そして腹部の触診だそうです。

すなわち、体を触らなければ診断できないということです。

そんな漢方好きの日本で、「触れない」オンライン診療が幅を利かせつつあるのも不思議な気がします。

 

 

以上、私がオンライン診療を拒絶する理由でした。

ただし、離島や医療過疎地は別です。もちろんのこと。

 

 

 

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