💛インフルエンザパンデミックのこと💛
2009.5.9
本日,大阪の高校生などが新型インフルエンザと診断され,日本国内での流行が現実のものとなってきました.
発熱患者さんの「診療拒否」の報道も世をにぎわせていますが,小さくても一医療機関の責任者としては複雑なものがあります.
私には患者さんを診療する義務があると同時に医院のスタッフの健康にも責任があります.
それ以上に,万が一受診された発熱患者さんが新型インフルエンザだった場合,その時来院されていた多くの患者さんにすさまじいご迷惑をおかけすることになります.
もちろん私自身も家族がありますので無防備な医療に身を捧げて殉職する訳には行きません.
診療所の狭いスペースの中で,発熱患者さんを完全に別の場所にわけて待っていただくことは現実には不可能です.
新型かどうかの診断が簡単ではない以上,すべての方をお断りしたくなる気持ちもよくわかってしまいます.
なにより流行シーズンの終わった今,当院にはインフルエンザを診断する簡易検査キットさえ在庫が乏しいのです.
タミフルの流通もキビシイとききます.
その「まるっきりの丸腰」状態で私に何ができるでしょうか.医者ならば聴診器一本で勝負せよ,とでも望まれているのでしょうか.
まずいのは,そんな詳細な事情を知ってか知らずか,「医師法違反だ!」とテレビカメラに向かってヒステリックに叫ぶ厚生労働大臣のあわてぶりかなと思います.
これから国内での感染が出てきた場合でも同じように「渡航者以外の発熱は診察するように」求められるつもりでしょうか.それともその時には一転して「発熱患者は診てはならない」とでも通達がでるのでしょうか.
判断に機動性は大切ですが,朝令暮改に振り回されるのはゴメンです.
基本的には医療従事者には「奉仕の精神」があるとおもいます.そうでなければ他人の血や便や尿や吐物にまみれる職に就こうとは思わないです.
なのになのに管轄官庁の長がこんな「わかってないなぁ」な発言をしていたのでは,そしてマスコミが些細なことを面白おかしく攻撃的な報道をしていたのでは,私たちの「士気」はどんどん萎えていきます.
極端な話,「それならいっそのこと『諸事情により休診』にしちゃおう」なんて声もきこえてきたり,来なかったり...
一方で,「発熱相談センター」「発熱外来」「専門入院施設」が整備されているかの報道がありますが,実際の現場はてんやわんやの状況です.
まず,検疫官増員も発熱外来もどこかから医者や看護師さんが涌いて出てくるわけではありません.
病院(国立病院機構などが中心でしょうか)のそれでなくても少ない医者が通常の業務を削って検疫の応援に駆り出されるのですし,医師会などが調整役になって地域の発熱外来の診察を分担するわけです.保健所にだってぶらぶら遊んでいる人がいるわけではありません.そもそも保健所には医師は数人もいないくらいではなかったでしょうか.
今あるだけのマンパワーをなんとかやりくりしてそれらを無理やり作り出しているのが現実の姿です.
そのあたりの事実を淡々と報道・評価して頂けたらと望むわけです.
今朝のニュースで,ある会社のとりくみが紹介されていました.
社員は毎朝体温を測って37.5度を越えたら出社禁止とし発熱相談センターに電話をすることを義務とした,のだそうです.
37.5度の熱で機械的にかかってくる電話を受ける「発熱相談センター」はたまらないな,というのが私の感想です.
この会社の担当の方には,発熱相談センターのマンパワーに対する負荷の考察・配慮はあったのでしょうか.
また,テレビで紹介される何重の扉に遮られて気圧調整された「専門病室」は日本で最高の施設であって,日本中くまなくそんな施設がある訳ではありません.むしろ紹介された施設は「チョー特別」とでもいうものではないでしょうか.
今の医療機関にはそんな特別のベッドを万が一の時のためだけに整備してふだんは使用せずに遊ばせておく余裕はありません.国立病院でさえ独立行政法人となり,独立採算で黒字を求められる時代と聞きます.特別の補助を受けたそんな病室が各都道府県にいったいどれだけあるというのでしょう.
そんなお寒い状態のなか私たちはどうすればいいのでしょう.
それが現実なのだ,ということを一人ひとりが理解することをスタートにして,誰が悪いどこがが悪いとマスコミのいつものやり方に惑わされず(本当はマスコミがそんな報道姿勢を考え直していただけると最高),自分だけは特別な対応をしてもらおう(してもらえるはず)なんて事を考えず(仮に私自身でもその望みがかなう可能性はほぼゼロですね),自分一人くらい適当なずるいことをしても大丈夫だろうなんて思わず,その時その場で責任者の指示に淡々と従うこと,でしょうか.
今までの内容と相反する事になってもしまいますが,くやしいけれど日本に住んでいる以上は日本国の決定に従うしかなさそうです.全員が小さな責任感を持って統制のとれた行動する,今の日本人の最も苦手なことかもしれません.
発生していない国を転々とさまよう,というのもありますが,お金とヒマが必要ですね.
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